「育児は何がそんなに大変なのか」をできるだけ論理的に説明したい


育児がどんなものかを他人に説明したい

こんにちは。
この前久々に上司と会って、僕が育休中どんなことをしてたのかという話になりました。

「どんなことやってたの」
「寝かしつけたりミルクやったりおむつ替えたりお風呂に入れたり、ですよ」
「たしかに寝かしつけは大変だよね。でもミルクとおむつはすぐ終わるじゃん」
「哺乳瓶拒否しかけた時期は手こずりましたよ〜。けどおむつはまぁそうですね」
「奥さんもするんでしょ?」
「もちろんします」
「あとは?」
「あとは…家事もしてました。ご飯も半分以上は僕が作ってたんじゃないでしょうか」
「夜は寝れた?」
「1,2回は夜泣きしますね、正直僕はあまり気づかないのでほとんど妻がやってます」
「1,2回ならましなほうかもね。大変だった?」
「そりゃ大変ですよ、大変じゃなくなるように仕事休んだってのもありますけど」


……


……なんか大変な感じが伝わってない気がする!!!


上司はアラフォーで二児の父なので、とんちんかんなことは言いません。
ただ奥さまは専業主婦ということもあり、正直育児業にコミットしてきたという感じではなさそうです。

共感してほしいというより、共有されてなさすぎという危機感

今回書こうと思ったのは、共感してほしいというより、ここに書いたようなことが
あまりに身近な出来事なのに、あまりに知っている人が少ないと思ったからです。
なんとなく「育児は大変」というふわっとしたイメージはあり
いっぽうで「仕事より暇」とか「嫌なら産むな」とか的はずれな意見がネットでもリアルでもよく見かけます。

心の中では「赤ちゃんがいるってのはそれだけで大変なんだよ!」と思うのですが
なかなか具体的に説明するのは難しいです。
こればっかりは僕も含めて「やってみないとわからない」という結論にはなってしまうのですが
それでも「父親が育児中心の生活に浸かるとはどういうものか」について、できるだけ多くの人に伝わる説明に挑戦したいと思います。
*我が子はいま5ヶ月くらいなので、その前提でお読みください

大前提として、個人差があまりに大きい


我が家では子どもが産まれてから「お互いが疲弊しないための仕組みづくり」をかなり一生懸命築いてきました。
2人そろっての育休取得はその最たるものですが、
以前の記事で紹介したジーナ式育児を実践したりスマートホーム化してストレスを減らしたり、週に一回振り返りを行って夫婦の認識の齟齬を減らしたりしてきました。

ただ、他の方が「そういう努力をしていないから疲弊している」のかといわれればそんなことはないはずです。

こればかりは赤ちゃんの個人差が大きく、
いまのところうちの子はどちらかというとそこまで手のかかっていない部類なのかなと思っています。
それが誰の何のおかげなのか、何のおかげでもないのかは分かるわけがありません。
これから何かアクシデントがあれば、ジーナ式も役に立たなくなるかもしれないわけで、、
なので、育児がどのくらい大変かは一概に言えないです。

大変さの本質は作業量(だけ)ではない


「どんなことをしてるの」ときかれれば育児にはいろんなタスクがありますが、
慣れればルーティンになりますしやってやれないことはないでしょう。

大変なことといえば「夜泣き」

夜泣きは2時間に一回くらいする子もいるらしいので、そうなると寝てられません。
「2時間に一回」というと、知らない人が聞くと
2時間寝る→5分起きる→2時間寝る→ …といった想像になるかもしれませんが
2時間寝る→1時間半起きて泣きっぱなし→2時間寝る→ …といったケースもザラです。
赤ちゃんが寝たら親も即寝れるというわけではないので、一睡もできない日がある親もたくさんいます。

育児の大変な理由は「長さ、未知、決断と責任、無力感、孤独」

育児は「これとこれとこれをやらないといけないから大変」というよりも
精神的に参るポイントが多いのかなと思います。

大変なポイント:
  • 拘束時間がきわめて長い
  • レギュラーよりイレギュラーが多い(経験を生かせない)
  • 分単位の決断を求められ、責任が全て自分にかかる
  • 努力に対するフィードバックが少ない
  • 寝れない
  • 命の危険と隣り合わせ
  • 孤独
これ企業だったらだいぶヤバイ部類だけど、育児業界ではこれが普通らしい。
ブラック企業というよりは経営者の資質を問われてる気がする。まさに「HARD THINGS」。

・拘束時間が長い
「拘束されていない時間」を「赤ちゃんと過ごしていない時間」と捉えるなら、夜の5,6時間程度ということもザラかと思います。
一日18時間勤務。365日。無給。

・レギュラーよりイレギュラーが多い(経験を生かせない)
スケジュール管理でコントロールできる面もありますが、「なぜこんなことが起きるのかわからない」場面が多いです。わけもわからず2時間泣き続けるとか。
人は経験したことのないことをするのは多大なストレスが掛かります。これは大変。
さっきルーティンでこなせると書きましたが、それはあくまで短期的(数日〜数週間)な話で
1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1歳、2歳……と、月齢・年齢によって気にかけることや作業もかなり変わってくるので、「昨日の常識は今日の非常識」ということもよくあります。

・分単位の決断を求められ、責任が全て自分にかかる
自分はCEOかって思うくらい、「決断」の連続です。
たとえば急に泣き出して泣き止まないとき、
  • いま泣いている要因はなんなのか
  • 何をすれば状況が悪化しないのか
  • それをすることでいまは改善したとしても、それに慣れると「それをしないと泣き止まない子」になってしまわないか
といったことを常に考える必要があります。
状況は刻一刻と変わり、瞬時に判断を求められ、結果うまくいかないこともありますし、
それを遂行する直前で突然スンと寝入ったりもします。
赤ちゃんのご機嫌株価チャートはITベンチャーよりも気まぐれです。

そして「決めた結果」はすべて受け入れなければいけません。
「泣き出した」程度ならまだよいですが、赤ちゃんがうつ伏せになって
「ひっくり返したところでどうせ5分後にはまたうつ伏せになるし、まぁいいか」
と何もせず扉を閉めて3分後、その子が窒息でもしていたら悔やんでも悔やみきれません……。
これ大げさじゃなくて普通に起こり得るし、実際毎日そういう事考えますよ。

・努力に対するフィードバックが少ない
努力してうまくいったところで、報酬が増えるわけでもないですし、
努力してうまくいかなかったら、自分の努力が足りないせいだと思ってしまうこともあります。
せっかく手間をかけて安全で栄養のある離乳食を作ったのに、
それを一瞬で床に弾かれてしまうと、何のためにやってるんだと自暴自棄になっても無理ありません。
たまに見せる笑顔と成長が最高なんですけどね。ほんとに。

・寝れない
理由は上に書いたとおりです。
2人だったら片方が寝てるあいだ赤ちゃんを見ていられるのでまだいいんですけどね。

・命の危険と隣り合わせ
赤ちゃんは何の前触れもなく呼吸が止まって死に至ることがあり(乳幼児突然死症候群=SIDS)、少しでも目を離すと危険です。

ほかにも、4,5ヶ月あたりで寝返りができるようになると、うつ伏せになってそのまま窒息、というのもよくある事例です。
子育てをして思うのは、本当に死がかなり近くにある感覚です。
ミスったら死ぬ(かもしれない)のが育児です。

・孤独
ワンオペは言わずもがなですが、両親でやってても、二人とも初心者。
教えてくれる先輩や悩みを共有できる知り合いがいないとなかなか気が持ちません。
飲み会好きな人からすれば「仕事から飲み会をなくした感じ」でしょうか。リセットする
きっかけもなく明日が訪れる……。
あと仕事と育児を分業している家庭は、「こんなに近くにいる存在なのに分かってもらえない」というのはとてもつらいのではないでしょうか。
一人じゃ孤独を感じられない、だからFor You です。

最も時間を費やしているタスクは「死なないようにすること」

育児にまつわるタスク(やること)はいろいろあるんですが、一番大事なのは「死なないようにすること」なのかなと。

ちょっと寝付きが悪かったりおっぱいを飲んでくれなかったりスケジュールがずれたりしても(かなり疲弊しますが)リカバーがききます。
しかし命の危険にさらされていないか監視することは怠ることができません。
「今日は疲れたから3時間無視」などできないのです。。

医師・看護師の当直と置き換えてみる

育児という仕事をなにかに例えられないかと考えて思いついたのが、医師・看護師さんの当直でした。

まず拘束時間。緊急のオペやらが入ると24時間以上いることもあるとあると聞きます。とても大変ですよね。
さらに「命の危険と隣り合わせ」というのも重要なポイントです。
当直は何も起きなければそこまでやることは多くないイメージですが(違ってたらすみません)、「異常がないか見張る」というのはとても重要なミッションです。

もし自分の家族が入院していて、朝お見舞いに行ったら、看護師の人に
「いやー昨日私が仮眠とってたらおたくのご家族心肺停止しちゃいましてね。気づいたときには遅かったです」
って言われたら
「は?????????」
ってなると思いますが、看護師も育児業も、「そういう可能性は常にある」環境に身をおいてるわけです。

だから油断しちゃいけないし、最善を尽くしていたら責めてはいけないのです。
奥さんに育児を任せっきりにしておいて、何かあったときに「お前がいながらどうしてこんなことに」などと決して言ってはいけないのです。

仕事と育児、どっちが大変?

これは時と場合によるとしか言えないですが、
自分の場合「仕事しているときよりストレスが溜まるんじゃないか」という不安もありましたが
幸い仕事しているときよりかなり余裕を持った生活をおくることができました。
ここまでいろいろ言っておきながらなんですが育休最高です。

「大変だから」男性も育休をとるべきなのか?

もちろん奥さん一人だと大変だから、というのは大きな理由です。
でも「大変じゃなかったらとらなくていい」というものでもないと思います。
そもそもいつから大変になるか分かりません。

「大変だった」誤算は子どもに対してではない

また、「そんなに大変なら子供作んなきゃよかったじゃん」みたいな意見もよく見ます。
疲弊している女性の多くは「育児そのもの(VS赤ちゃん)が想像以上に大変だった」のではなく
「想像以上に誰も助けてくれなかった」というのが大きいように思います。
夫、両親、夫婦の職場など、いろんな人のサポートは必要なわけで
一つでも欠けると育児は超ハードモードになりますし、
それを「自業自得」で片付ける社会はあまりに生きづらいと思います。

子どもを作るという、ある種「経済合理性に反した行為」をしたわけですから(子どもが一人いたら1000万円以上はかかると言われているしね、恩返しを期待しているわけでもないし)
合理的でなくても、「親なんだから子どもとできるだけ長く一緒にいたい」という、当たり前の感情を優先したいのは当然です。
子どもをとおして家族が幸せでありたいのです。それでいいじゃないですか。
大変だろうが大変じゃなかろうが、父親も親なら育児にコミットする期間があったほうが、自分にとっても奥さんにとってもお子さんにとっても良いと思います。
15年後、20年後にきいてくるんじゃないでしょうか。

さいごに

なんかもっと冷静で客観的な内容にするつもりだったのですが
おもいのほかエモい感じになってしまった……。

とにかく僕が言いたかったのは
  • 育児の大変なポイントは「長さ、未知、決断と責任、無力感、孤独」
  • 最も時間を費やしているタスクは「死なないようにすること」
  • 命の危険と隣り合わせ
  • 大変だろうが大変じゃなかろうが、父親も親なら育児にコミットする期間があったほうがよい
こんなところです。

「男性の育休」や「女性の社会復帰」に関しては
理想とは程遠い世の中の悲痛な叫びをツイッター上でたびたび観測するので
こんな感じになってしまったのかもしれませんが
ご意見あればどんどんコメントいただければと思います。

ではでは。